人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2011/10/14  (連載 第29回)

主体的に取り組む

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 先日、ある企業の若手社員を対象に「主体的に取り組む」をテーマに2日間の 研修を行いました。
 受講対象者は、数年の経験を経て、自分の担当する業務に関しては「自信」を 持っている段階であり、その自信から一段高いステップ、つまり「自ら改善提案 を行い、関係者の了解、賛同を得て、仕事全体に主体的に取り組む人材」に育っ てほしいと会社・職場が期待する若い社員でした。

「主体的に取り組むためには、何が必要か?」
 この命題に対し、研修は次の5つのテーマで展開し、学習しました。
 (1)課題の優先順位を考える
 (2)「この仕事に影響を与える人は誰か」を考える
 (3)コミュニケーションを円滑にする「傾聴法」と「質問力」
 (4)リスクに備える
 (5)仕事の課題、その対策

課題の優先順位を考える

 主体的に取り組む人材は、自ら課題を整理して、課題の優先順位を決め、緊急 な案件だけでなく、重要な案件についても計画的に取り組みます。
 研修では、プロセス思考を用いた「課題管理のプロセス」を学習し、「重要度 を加味して優先順位を考える」ことの必要性を確認しました。また、「問題は状 態」、「課題は行為」--これは、前回のコラムで紹介した内容ですが、「同じ問題でも課題表現によって取り組む内容は異なる」ことを学習しました。(内容はこちら

「この仕事に影響を与える人は誰か」を考える

 主体的に取り組む人材は、「この仕事に影響を与える人は誰か」を考え、目標 達成に必要な合意形成を行いながら、業務に取り組みます。
 研修では、ステークホルダー(影響を与える人)の列挙とPMBOKが推奨し ている「ステークホルダーマップ」をまず作成しました。そして、「自分のスタ イルと相手のスタイル」を見つめ、スタイル対応することで良好な関係を構築す ることを学習しました。

コミュニケーションを円滑にする「傾聴法」と「質問力」

 主体的に取り組む人材は、顧客、上司、関連部署、そして後輩全てのステーク ホルダーとの良好な関係形成のためにコミュニケーション力を駆使します。
 研修では、「積極的傾聴法(アクティブリスニング)」、「閉じた質問」と 「開いた質問」を学び、良好なコミュニケーションの手法を学習しました。
「積極的傾聴法」では、上記のテーマで作成したシナリオライティングをもとに ペアで傾聴法の実習を行い、コミュニケーションにおける「聴き手」の役割、そ の重要性を確認することができました。
 「閉じた質問」と「開いた質問」では、その特徴を学び、「閉じた質問」につ いてはペアでの実習で質問の使い分けの必要性を体感しました。このテーマに関 しては、以前の記事『相手の真意を引き出す質問「と、いうと?」』に詳しく 記載しています。(内容はこちら

リスクに備える

 主体的に取り組む人材は、担当する業務のリスクを想定し、その予防対策と発 生時の対策を前もって行い、関係者の了解を得ています。
 研修では、プロセス思考を用いた「リスク対応プロセス」を学習し、「成果と 条件の明確化」、「実施計画の作成と重大領域の作成」を行ってから、リスクの 列挙、予防対策の立案、発生時対策の立案、の一連のプロセスをグループワーク により、取り組みました。

仕事の課題、その対策

 主体的に取り組む人材は、仕事の生産性の向上に取り組むとともに、チームが 仕事の満足感を得るために必要な配慮を行います。
 この研修のまとめとして、「仕事の生産性と仕事の満足感を高めるためにどの ように取り組めば良いか?」という抽象度の高い課題を提示してグループで話し 合い、結果を全体で討議しました。

 討議の前にドラッカーの次の一説を提示しました。
「仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う。仕事をするのは人であって、仕事は常に人が働くことによって行われることはまちがいない。しかし、仕事の生産 性をあげるうえで必要とされているものと、人が生き生きと働くうえで必要とさ れるものは違う。したがって、仕事の論理と労働の力学の双方に従ってマネジメ ントしなければならない。
 働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。
 逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である」

 ドラッカーの言うように「仕事の生産性と仕事の満足感は、根本的に異なるも のなのか」を問題提起して、「自分たちは仕事に主体的に取り組む上で、これら の問題にどう取り組めばよいのか」を考えてもらいました。

 今回の研修は、何かを吸収しようとエネルギッシュ取り組む若い方々とと共に 実に充実した時間を過ごすことができました。やや難易度が高いと思われた最後 のグループ討議も各グループの独創的なアイデアが盛り込まれました。
「自ら主体的に仕事に取り組むことで、仕事の生産性は向上し、また自ら取り組 むことが仕事の満足度を高める」
「仕事の目的や顧客の顧客を考える中で生産性と満足度は両立できる」
との結論を得ました。

 研修の最後に一人ひとりに感想を述べていただいたところ、以下のような感想 を述べた人がいました。
「これまで面白いと感じて仕事をすることは、ほとんどありませんでした。言わ れたことをすれば良い、という気持ちで仕事に取り組んでいたと思います。今回 の研修のテーマは『主体的に取り組む』ということでしたけれど、いちばん感じ たのは、3人のレンガ職人の話を聞いたときでした。私の仕事は、1番目の職人 か、せいぜい壁を作っていると認識している2番目の職人の取り組み姿勢でした。 レンガを積んで修道院を造っている、そしてその『修道院が人々の心のよりどこ ろになるだろう』と想像することで自分の仕事に誇りを感じている3番目の職人 の話を聞いて、ハッとさせられました。顧客の顧客を考える、システムの目的を 考えて、仕事に主体的に取り組むことで仕事にやりがいや面白いと感じるように 努力したい」
 彼女の感想は、受講者全員に何かを感じさせる響きがありました。仕事の目的 を考え、仕事に楽しんで取り組むことが、主体的に取り組むことにつながると感 じられたようです。

 スティーブ・ジョブス享年56歳、2005年にスタンフォード大の卒業式で 彼は言いました。
「偉大な仕事をする唯一の方法は自分がしていることをたまらなく好きになるこ とだ」

 彼は、仕事を楽しみ、主体的に世の中の創造に取り組んだ、偉大な経営者でし た。ご冥福をお祈り申し上げます。


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